業務委託による外部人材の起用

2022.10.20

弁護士 植村 和也

企業運営に当たって、雇用と業務委託の違いを理解することは非常に重要です。両者には、法的に主に以下のような違いがあります。

雇用 業務委託
① 適用法令 労働契約法、労働基準法等 民法、独占禁止法、下請法等
② 会社との関係 指揮監督-従属 委託(発注)-受託(受注)
③ 就業規則・服務規律の適用 あり なし
④ 稼働形態 勤務時間と勤務場所の指定 契約に基づいた内容
⑤ 残業代の支払 あり なし
⑥ 社会保険・労働保険の加入 あり なし
⑦ 契約の終了 解雇法理に基づく制約あり 契約に基づいた内容

 

スタートアップ企業においては、人的リソースが恒常的に不足しがちであるところ、これを業務委託によって補うケースが多く存在します。
このような人材起用が一般的に業務委託の形式で行われる理由は以下のとおりです。

・ 人的リソースが不足している社内領域に絞って、スポット的に人材を配置できる。
・ コスト面や組織・事業の変化に応じて当該人材配置が不要になった際に、契約を切りやすい。
・ 他企業にも業務を提供するフリーランスにおいて、業務委託の形式での受託が受け入れられやすい。

ところが、上記の理由から外部人材を業務委託の形式で起用した場合でも、実際の業務形態によっては、相手方との間で雇用関係が成立してしまうことがあります。
この場合、相手方との契約が切れなくなったり、相手方から残業代の支払を請求されたりして、企業の運営に支障が生じるおそれがあります。

業務委託であるか雇用であるかは、契約内容及び実際の業務形態に係る諸般の事情を踏まえて総合的に判断されます。
業務委託によって人材を起用する際には、特に以下の点に注意が必要です。

・ 契約に委託業務の内容を明確に定め、それ以外の業務に従事させない。
・ 相手方に対して、業務依頼・指示について一定の裁量と諾否の自由を与える。
・ 業務の開始時間及び終了時間、休憩時間、並びに業務場所を指定しない(特定の時間ないし場所での業務遂行が業務の性質上不可欠な場合は除く。)。
・ 時給換算のように、報酬額を業務時間と連動させない(業務の性質上、稼働時間ベースでの報酬額算定がやむを得ない場合は除く。)。
・ その他、組織内部において、従業員と同様のレポートラインに相手方を配置するといったような、実質的に労働者と同視しうるような業務形態を採らない。

スタートアップ企業においては、社内での役割分担が明確ではない等の理由で、業務委託による稼働と、雇用による労働の区別が意識されず、業務委託の形式で締結された契約が、法的に業務委託として整理できるかがきわどいケースが少なくありません。将来的な紛争リスクを避ける観点からも、業務委託による人材起用に際しては、契約内容や運用方法について、弁護士の意見を求めることが望ましいといえます。