従業員の雇用

2022.9.30

弁護士 植村 和也

スタートアップ企業においては、簡易な雇用契約書を用いて、あるいは雇用契約書を作成せずに従業員を雇用してしまうケースがあります。この場合、将来的な労務トラブルのリスクが生じるほか、それ自体が労働基準法違反になる可能性があります。

雇用契約締結時には、雇用する従業員に対して、少なくとも以下の労働条件を書面(労働条件通知書)で明示することが必要です。

① 労働契約の期間
② 有期労働契約の更新の基準
③ 就業場所・従事すべき業務
④ 始業・終業時刻、所定労働時間超えの労働の有無、休憩時間、休日、休暇
⑤ 賃⾦の決定・計算・⽀払⽅法、賃⾦の締切・⽀払時期、昇給に関する事項
⑥ 退職(解雇を含む)に関する事項

労働条件通知書による労働条件の明示は、上記①~⑥の条件を含む雇用契約書を作成することにより代用することができます。労働条件通知書は、厚生労働省が雛形を公開しており、これを活用することもできますが、将来的な労務トラブルを避けるためにも、労働基準法等に適合し、かつ企業の業務スタイルに合った内容の雇用契約書に適切に作成しておくことが望ましいといえます。

また、上記①~⑥の条件のほか、以下の労働条件の明示も必要になります。かかる明示は書面による必要はありませんが、これらの条件についても、雇用契約書に何らかの形で定めておくことが望ましいといえます。

・ 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払方法、退職手当の支払時期
・ 臨時に支払われる賃⾦(退職手当除く)、賞与、精勤手当、勤続手当、奨励加給、能率手当、最低賃⾦額
・ 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
・ 安全衛⽣、職業訓練、災害補償・業務外の疾病扶助、表彰・制裁、休職に関する事項

締結後における雇用契約の内容の追加・変更には、原則労働者の合意が必要であるため、不十分な知識のまま雇用契約書を作成したり、インターネット上にあるサンプルを流用してしまうと、その内容を軌道修正することは困難です。そのため、スタートアップの段階で、弁護士と意見交換をしたり、雇用契約書案を作成ないしレビューしてもらう機会を持つことが有益です。